政治のお悩み相談所:大学院の物事

政治とコミュニケーションについて研究している博士課程所属のものです。大学はカンザス大学。テクノロジーと政治、政治的分断、ソーシャルメディアによる日常生活と政治の重複などに関心があります。文系・社会科学系大学院生として発信中

『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』 生きづらさの正体はなんなのか。/動画告知

日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点 -
日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点 - 池袋にある某書店で購入する本を狩っている最中、現代日本を表す書籍特集が組まれており、書店員さんが選んだ本が本棚に並んでいた。普段の生活からもひしひしと感じる疑心暗鬼な世の中。おそらく今の日本社会は明るくないのだろうという感覚だけを感じ、本棚に目を通してみるとあっという間に一時間が過ぎていたほど熱中していた。 本棚の隅から隅まで書店員さんたちの手書きの紹介文を読みながら興味がある本を次々にカゴの中へ放り込んでいった。多くの種類の本が現代日本を物語っていた。スマホの普及やAI の出現で大きく変わる情報収集に関する本、過労死ラインほどの残業や仕事の辛さから会社を辞めたいが思い切れない人の心理を分析した漫画、そして、日本社会を心理学から分析した本が目についた。 そのうちの一つが『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』に出会った。社会心理学者が書いた本書は現在の日本社会の生きづらさ社会心理学の知見を踏襲しながら論理的に論を進めている。 オススメしたいからこそ書評を書いているのであるが、特にオススメしたい人がいる。現在の日本社会が昔の価値観である集団主義から個人主義の社会にパラダイムシフトしていると感じていてなぜか生きづらい。自分を出して生きたいが、そうすると周りから叩かれる。それならば、何もしない方が自分も傷つかないし、騒ぎにならないからこのままの状態でもしょうがないと諦めている人。人は誰しも自己利益を最大化するはずなのに、国の体制自体がそれを許さない。それは正直に生きるなと言われているように感じていて、疑心暗鬼になっている人だ。 上記の人々の違和感は正しいだろう。実際に現在進行形で起きているのだから。自信を持って本書をお勧めする。これまでその違和感への論理的説明がなかったから直感的にしか感じることができなかったのだ。 これまで海外留学から、日本人は実は集団でいることが大好きではないのだという仮説を立て観察をし、また先行研究でも日本人はどちらかというと個人主義的価値観が集団主義よりも大きい数値で現れていることを知った。そこから、日本人は自分に正直に生きることができていないのだという悲観的感情を抱いてしまった。 本書での主な主張の一つとして、日本社会は集団主義システムを取り入れることによって「安心」を手に入れてきたことがわかる。最多数の人が守る暗黙のルールやモラルは集団の中では力を発揮する。もしそのルールを破れば、個人は叩かれるだろうし、会社では契約が打ち切られるなどの社会的制裁が行われるだろう。そのような社会的な縛りから私たちは他が変なことはできないだろうと安心していたのだ。 一方で、個人主義の代表とされるアメリカでは「信頼」がベースとなる社会であるために、まずは赤の他人を信用することをし、もし裏切られた場合は法律を駆使して正義を勝ち取るということをする。法律という外部環境がアメリカに住んでいる人に「安心」を提供しているからこそ、人々は「信頼」することができるのだと筆者は主張する。高度経済成長時代のモデルは社員を終身雇用で雇うことができることにより安心を与え、その代わりに集団主義のルールに落とし込めることができた。しかし、グローバリゼーションや個人主義の価値観が日本へやってきている今日、もはや集団主義のルールに従っているだけでは幸せを勝ち取ることはできないと多くの人が気付き始めている。抜け駆けを許さない集団主義のやり方を未だに続けている今日と、自分に正直に生きることへの幸福感を求める人々との価値観が混在し私たちを混乱させている。 どちらかの倫理を選ぶことで私たちに認知的不協和は解消されることを願いたい。私は、驚いたことや、筆者の考察に感心したところに付箋をつけることにしているのだが、付箋の数がいつもの倍である。ページをめくるために筆者に考察に引き込まれていく。本書の魅力は、筆者の考察だけではない、筆者の書き方は、痒いところに手が届くとでも言おうか、読者として疑問が出てくるたびにすぐにそれを待っていたかのようにその疑問答えるような形で論が進んでいく。本書は日本社会をマクロな視点で語りたいサラリーマンの方などにも最高のおつまみだろう。ありきたりな日本文化論で話を濁すのではなくズバリと人間の心理から社会語る社会人はかっこいい。 ※6月からコミュニケーションや書籍に関する動画を投稿しています。ぜひ動画でもコミュニケーションや社会科学一般を学んでいきましょう。コミュニケーション博士を目指して大学院留学生活や専門分野の話もしていくつもりです。 旅の始まり