政治のお悩み相談所:大学院の物事

政治とコミュニケーションについて研究している博士課程所属のものです。大学はカンザス大学。テクノロジーと政治、政治的分断、ソーシャルメディアによる日常生活と政治の重複などに関心があります。文系・社会科学系大学院生として発信中

ウェブ炎上 ネット群集の暴走と可能性 荻上チキ

こんにちは、最近はアルバイトの方が少し忙しくなってきています。 今回はメディアコミュニケーションについての本になります。私は、異文化間コミュニケーションに興味がありますが、インターネットが普及し始めてからはコミュニケーションの場がネット上でも行われており、これまで研究されてきていますし、最近ではYouTubeに関する研究なども盛んに行われています。私はメディアコミュニケーションについて知識が乏しいため入門書として、今回の本を選んでみました。 ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書) -
ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書) - 著者の荻上チキ氏はメディア論やコンテキスト論を専門としているためメディアコミュニケーションに興味がある人にはオススメの一冊です。本書の中で沢山の専門用語が出てきますが、わかりやすい説明がすぐ後に書かれていますので入門書として最適です。今回はその中でも著者の中心議論である2章を取り上げます。
本書の目的は?
荻上氏は著書の目的についてこう述べています。「炎上現象はなぜ、どのようにして起こるのでしょう。本書はそのような疑問を抱く人に向けて書かれています。」p8  荻上氏は具体的に「本書は、インターネット上での集団行動が社会にもたらす影響について考えると同時に、『インターネット上での集団行動が社会にもたらす影響について考える』ための能力を養うことを目的としています。インターネット上で観察される集団行動を分析するための領域横断的なツールを提示し、いくつかのケース・スタディを共有することで、ウェブ上で起こる「炎上」などの諸現象に対する見方や対応の仕方をバージョンアップするためのアイテムになりたいと考えております。」p9 と書いています。なぜ私がメディアコミュニケーションの入門書に良い本かと言うと学問的な知識を踏襲しながら炎上について分析をしているからです。様々な理論の使い方には個人的な考え方が反映されますが、理論自体は議論を重ねて出来上がったものであるため、信頼性は高いです。
炎上が起こる仕組みとは?
炎上とは何かを理解することから炎上について分析すること必要です。荻上氏は炎上をこう定義します。「ウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、収まりがつかなさそうな状態のことを『炎上(した・している)』と表現します。」p7 この定義からわかるように炎上は個人行動が一点に集まり結果的に集団のようになることを指しています。 炎上現象を分析するために著者はサイバーカスケードという一つの理論に注目しています。その定義とは「サイバースペースにおいて各人が欲望のままに情報を獲得し、議論や対話を行なっていった結果、特定のーたいていは極端なー言説パターン、行動パターンに集団として流れていく現象のことを指します。」p34-35 第2章「サイバーカスケードを分析する」で著書は個人の情報選択について触れそれがどのように集団かするのか詳しく述べています。荻上氏はインターネットは他のメディアと違い情報をあらかじめ取捨選択することができること、そして自ら発信することができるメディアという視点に立っています。 その特性から判断すると、私たちは数え切れない数の情報から自分に興味関心がある情報を取り入れて生きていることになります。そうなると、あらかじめ自分の持っていた情報や先入観を支持するような情報だけを積み重ねることになります。そのことがもともとあった考え方や偏見を強化していくことになり、それを本書の中で「確証バイアス」と呼んでいます。p65-66 人は自分が正しいと思いたいものであるため、自分の言説を支持してくれる言葉や場所または他人を好みます。たとえ、自分が少数派だとしてもネット上では問題にならないそうです。自分が好む言説を取り入れ、多くの人と同調してその声を大楠していくことができるのがその理由なのかもしれません。 確証バイアスとネット上で自分の考えを支持してくれる言説の中で生きることで、反対派の意見が耳に入らないことが起きる。もう殻にとじこもる感じですね。同調する人が増えればそれは集合体、いわゆる集団となりますので炎上となるいうことですね。
まとめ
メディアコミュニケーションや社会心理学の専門用語が少し出てくるので、全くその分野に興味があるけれど知識ゼロの人にはオススメの一冊です。しかし、すでにコミュニケーション学や社会心理学などの知識がある人にとっては疑問点がいくつか出てくる。本書のタイトルである「ウェブ炎上」はサイバーカスケードで説明がつくのかという問い。炎上の中にも様々な意見が飛び交うことだろう、肯定する人もいれば否定する人がいる、普段ネットをそこまで使わない人でも友達から教えてもらいコメントを残してみるなどする人もいることから、必ずしも同調集団が一斉に攻撃してくることはあるのかわからないし、結局のところ個人プレーが多く集まったことだけのようであると感じる。しかし、最近社会心理学用語を忘れていたので復習として役立った。