政治のお悩み相談所:大学院の物事

政治とコミュニケーションについて研究している博士課程所属のものです。大学はカンザス大学。テクノロジーと政治、政治的分断、ソーシャルメディアによる日常生活と政治の重複などに関心があります。文系・社会科学系大学院生として発信中

 ヘイト・スピーチとは何か 師岡康子

前回の投稿で、ヘイトスピーチに関する本を紹介しました。それに続いて本日もヘイトスピーチについての一冊になります。 ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書) -
ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書) - 本書はヘイト・スピーチの定義に重点をおき、海外(イギリス、オーストラリア、ドイツ、カナダ)での法規制を伝えている。日本もこれらの国々と同様にヘイト・スピーチに法規制をかけるべきとは言っていないが、法規制が必要との立場をっとていることはわかる。実際に、師岡氏は「ヘイト・スピーチの悪質なものは法規制すべきとの立場にたっている....。」p viiiと主張していることからもわかるだろう。 以下では、師岡氏の主張を中心に見出しをつけて紹介する。
ヘイト・スピーチって「憎悪表現」?
ヘイトスピーチ」という言葉を初めて聞いた人、特に在特会などの過激派保守運動の言動を耳にしたことがないとどんな「スピーチ」ってツッコミを入れたくたります。ヘイトスピーチとは比較的新しい言葉で2013年に日本で一斉に広まりました。この「ヘイトスピーチ」とは1980年代アメリカでヘイトクライムという言葉とともに作られ一般化していったそうです。pi アメリカで作られた言葉=英語ですので日本語に訳すと「憎悪表現」となります。 師岡氏はこの和訳が法規制を難しくしている要因の一つだと言います。憎悪表現と聞けば、相手を非難する時に使われる言葉のように勘違いをする人がいるのでことの重大さに気づいていないとのこと。 さらに師岡氏はヘイトスピーチと単なる不快な言葉の違いを強調します。「まずヘイト・スピーチは、単なる『悪い』『不人気』『不適切』『不快』な表現ではないことを確認したい。脅迫や名誉毀損が他人の他人の人権を侵害して許されないのと同様、ヘイト・スピーチは人権を侵害する表現であり許してはならないものである。」p151  
ヘイト・スピーチの定義は?
結局のところヘイトスピーチとはなんですか? この問いは意外に答えることが難しい。全世界で共有しているヘイト・スピーチの定義はないからだ。しかし国際人権法に人種主義的ヘイト・スピーチを規制する条約があるらしい。ここでは割愛しますが、結局、師岡氏がまとめると、 「ヘイト・スピーチとは、広義では、人種、民族、国籍、性などの属性を有するマイノリティの集団もしくは個人に対し、その属性を理由とする差別的表現であり、その中核にある本質的な部分は、マイノリティに対する『差別、敵意又は暴力の煽動(自由権規約20条)、『差別のあらゆる煽動』(人種差別撤廃条約4条本文)であり、表現による暴力、攻撃、迫害である。」p48 ということだ。前回の安田氏の著書『ヘイトスピーチ』にもあったがマイノリティーに対する抗弁不可なものに対する攻撃が単なる嫌がらせなどど区別される点であることがわかる。
人権問題に対する日本の態度はどうなの?
師岡氏は人種差別撤廃に対する日本の姿勢に特異性を見ている。というのは、人種差別撤廃条約加盟時に人種差別撤廃へ向けた法整備を北海道旧土人保護法廃止・アイヌ文化振興法制定以外行わなかったというのだ。p73 やはり海外と違い、人種を意識することがあまり多くない日本人にとってヘイト・スピーチは早急に対処が必要な課題ではないと見ていたのだろう。 そんな日本も2016年6月3日ヘイトスピーチ対策法が施行された。ここにヘイトスピーチの定義を載せておきたい。「日本以外の国・地域の出身者と子孫で適法に住む人に対し、差別意識を助長・誘発する目的で、命や体に危害を加えるように告げるか、著しく侮辱し、地域社会からの排除をあおる行動」(朝日新聞2016/11/29火曜日) 現状として、対策法ができたがどのような言動が差別になるのか明確な基準がわからないことや、実際に罰則などが設けられていないことからこれから議論を詰めていく必要がある。
まとめ
在特会が世の中に認識されるようになってから、ヘイトスピーチがメディアに取り上げられ、対策法までできた。在特会は、日本人に人種という言葉を覚醒させ、我々の身近にも外国人問題が関係しているという街宣を行い、日本人としてのアイデンティティを呼び起こさせた。人種ということ自体を意識して考えてこなかった自分が、ある意味、幸せだったのかもしれないと、今、ふと思った。 今回の本は日本のヘイトスピーチもしくは人種差別撤廃の意識が他国に比べて特異ということを比較することができる本である。タイトル通り、ヘイトスピーチってなに? と疑問に思っている方は、まずはじめにこの本を手にとって見て欲しい。