政治のお悩み相談所:大学院の物事

政治とコミュニケーションについて研究している博士課程所属のものです。大学はカンザス大学。テクノロジーと政治、政治的分断、ソーシャルメディアによる日常生活と政治の重複などに関心があります。文系・社会科学系大学院生として発信中

 移民大国アメリカ 西山隆行著

こんにちは、本日は前回の在日外国人関連でアメリカの移民問題を取り上げます。

今回は「移民大国アメリカ」を読みました。

移民大国アメリカ (ちくま新書) -
移民大国アメリカ (ちくま新書) -

まずアメリカが移民の国と言われていることは知っていましたが歴史については意外と知らなかったことが多かったです。いくつか引用してみます。

「移民大国であるアメリカでは、近年中南米系とアジア系の移民が急増しており、2050年までには中南米系を除く白人は人口の50%を下回ると予測されている。」p10

アメリカには、毎年100万人程度の合法移民が入国している。それに加えて、国境線を不法に越境する人々や、ビザの期限が切れた後不法に滞在し続ける人が存在する。そのような不法滞在者は1000万人を超えており、彼らに対する反発がトランプ支持増大の背景にある。」p11

東京の人口がおよそ1300万人であるから不法滞在とてつもなく多くてびっくり。

あとアメリカは人種の坩堝と言われているけどアメリカは建国期から移民をじゃんじゃん受け入れてきた国ではないようです。

西山氏は、「この坩堝の中に入ることが認められているのはヨーロッパ系のエスニック集団のみであって、いわゆる有色人種がそこに加わることは想定されていないことが多かった。また、実際のアメリカ社会は、全てのエスニック集団が平等な立場で混ざり合う坩堝ではなく、トマト・スープのようなものだっとと言われることも多い。」p21と主張します。

                      つまり

白人やアングロサクソンプロテスタントの文化や価値観に移民は同化するべきだということ。

この価値観が変化したのは、1950年代以降の公民権運動です。

また移民に関してはいろんなことに関わりがあるみたいです。

「移民政策は、相矛盾する利益や理念が激しくぶつかり合う争点である。また雇用や経済成長、人口動態、文化、社会福祉、権力分布、外交関係、安全保障などの、様々な領域に影響が及ぶ。」p24 

そう考えるとトランプのキャンペーンでは経済と移民がメインテーマだったな。

経済に関しては移民受け入れ当初から中国系に対して差別があったみたいです。建国期から反移民感情はある程度見られ、中でもアジア(中国)からの移民は排外運動の矛先が中国系の移民へ向けられた。

「中国からの移民は数が限られていたこともあり、政治力を持つこともなく、法的な保護も得ていなかった。中国系は1850年代から70年代にかけて、炭鉱労働、鉄道建設、製造業、農業などの従事する安価な契約労働者としてカリフォルニアに連れてこられたが、白人労働者はそのせいで賃金が低下し、労働環境が悪化すると不満を抱いた。」p32

今回の大統領戦ではグローバル化のせいで賃金が安くなっているということだったけどトランプさんこれから本当に賃金上げられるのかな?移民問題かなり深刻だけど

ドナルド・トランプ氏の発言で目立ったのはメキシコとアメリカの国境に壁を作るというものであった。それほど、中南米系移民は不法移民、低賃金労働、犯罪という確固たる証拠がないまま差別化されている。西山氏は中南米系移民が増えた原因について2つあげている。1965年に改正された移民法で制定された離散家族の再結合と出生地主義だ。

「離散家族の再結合原則が導入された結果、移民してアメリカ国籍を取得した人が申請すれば、その家族はアメリカ国籍を取得しやすくなるので、合法移民が雪だるま式に増大したのは不思議でない。」「また、出入国管理が厳格に実施されていない状況を利用して、不法移民も増大した。合衆国憲法の規定上、不法移民や外国人の間にできた子供であっても、アメリカ国内で生まれてあ場合にはアメリカ国籍が与えられる。そして彼らが21歳になると家族を呼び寄せてアメリカで合法的に居住できるようになる。」p42

著者の専門が社会福祉政や策犯罪政策であることから福祉や犯罪についての章がこの本の一番のポイントだ。

社会福祉の一つである年金についてであるが移民は労働賃金から少なからず年金を徴収されているという。そして、受給資格として10年間の労働と納税が必要であり移民がこの制度を悪用することは考えずらく年金制度を求めてアメリカに来ることも少ないだろうと主張。

犯罪についても新たな示唆をもたらしてくれる。不法移民の取り調べについて人種的プロファイリング導入や、警備隊が比較的点数を取ることができる国境付近への集中、そしてストーリームライン作戦以前は捕まえた不法移民を元の場所へ返していたが現在は連邦刑務所へ送られることが中南米移民の犯罪率上昇に関わっているという。

最後に日本のこれからの移民政策として、移民を受け入れる際に社会的統合をしっかりと行うべきだと主張する。

「恵まれない状況に置かれている人々は採りうる選択肢が限られていて、社会から排除されやすくなり、結果的に社会に背を向けてしまう可能性がある。それに伴う問題は多数派の側にも跳ね返ってくる。したがって、移民を受け入れることを決めた場合には、彼らの社会・経済的地位が最底辺のものにとどまり続けることがないよう、一定のサービスを提供することが、彼らのためだけでなく日本国民のためにも必要である。」p223

                      まとめ

移民問題について興味があったので試しに読んでみるとアメリカの移民の歴史がざっくりと概観できた。全く知識がなかったものとしてかなり有益だ。そして移民に関する経済、福祉、そして犯罪についてまで言及しており、一冊で幅広い視野を身につけられる。何よりも参考文献がついており、少しは信憑性がある。特に、社会福祉と犯罪の章が見えそうで、見えないアメリカを映し出しており有益だった。さすがちくま新書といったところである。著者の西山氏は政策研究をしているためマクロな視点でアメリカ社会を概観できる。移民の入門書としては一読に値する。